彼の家に着いて、

散らかった床を片付けて、

安っぽいコーヒーメーカーでコーヒーをいれた。



こんなおもちゃみたいなコーヒーメーカーでも、

インスタントよりはいい香りがする。



まだ、

指先も頭の奥もほんのり痺れていた。


強すぎて、

眩暈がするような魂を

私ははじめて見た。



あの一分に満たない時間が、

まるで永遠みたいに感じた。




あの低い声も、

虚ろな瞳も、

ラーメンの匂いの影に香った

女物の香水の香りも。



毛穴から吸い込んで、

ひとつひとつの細胞に刻み込まれてしまった。



コーヒーにやたらと砂糖を入れる男の、

カチャカチャと喧しい手元を見ながら、

私はぼんやりと何度も繰り返し思い出していた。



”また会えるよ”



そう言ったあの薄い唇や、

色が白すぎて
向こう側が見えてしまいそうな頬や、

私の答えに

満足そうに緩んだ口元を。