東京 銀座


黒いパンツスーツに身を包んだ女が一人、せわしなく帰りじたくを初めて居た。


「あれ?移動いつだっけかー?」

同僚が女に声をかける。


「来週。」

さらっと答えた女に、同僚は寂しそうに俯く。

「寂しくなるなぁ~」

女はそんな同僚に細く微笑むと


「お疲れ様!」

片手を上げてオフィスを後にした。


カツカツカツカツ・・・


ヒールの音を響かせながら


沢山のきらびやかな宝飾品が並べられた、ショールームを抜ける。


外に出るとすぐ、携帯を取り出してコールを鳴らした。


「もしもし?うん。20時には着くと思うから。」


女は微笑みを浮かべながら、携帯片手に歩き出す


バイトから初めて、勤務態度や販売成績のおかげもあり、思いもよらず正社員になった女は


今年の冬、主任とゆう肩書を与えられる。

そして来週。

東京支店から神奈川支店へ移動になる。

扱うものはもっぱら高級な宝石。

ルビーを見る度に、彼女は胸が熱くなる。


愛しい人を思い出すのだ