ガチャ


玄関を開けると、ヒールの低いパンプスが視界に入る。


「・・・・・」

珍しい。

そう思ったのもつかの間


パタパタと小走りでリビングから母が駆け寄ってくる。


「どこ行ってたの!」

「・・・・・・」

「愛美っ!」

無視したアタシの腕を掴む。

「普段まともに家にいないくせに、お説教?」


冷めた目で見上げるアタシに母は顔を歪めた。


「だって!お母さんが働かなくちゃアンタだって生きてけないのよっ!」


「いいよ別に。」


「え・・・・?」


「だからいいよ。別に文句言ってない。あなたはあなたで好きにしたらいいよ。」


「・・・・・」


「散々放置してたんだからさ、気まぐれに親ぶるのやめてくんない?」


バタンッ!

激しい音をたてて、部屋のドアを閉めた。

それ以上の言葉を遮断する様に。


でも・・・・

確かにそうだ。


母に養って貰ってるうちは、アタシも甘えて生きてるのと同じ。


なーんの自立も出来ちゃいない。


白井いわく、ただの甘ちゃんだ。




ベットに潜り込んで、きつく目を閉じる。


眠ってしまえばもう

自然と何も考えずにいられるはずだから。


でも・・・・


「寝過ぎた・・・」


ポッポッと

窓にあたる雨の音。


思い立った様に、携帯を・・・・

探したけど・・・・


「ない・・・」


白井ん家に忘れたんだ


「っち・・・」


小さく舌打ちをうった時、ガチャンと玄関が閉まる音が聞こえた。



タイミングが良い。

すぐに立ち上がり、リビングに向かった。


案の定、母は置き手紙を置いて外出した様だ。



今度、ゆっくり話しあいましょう。
今夜は帰れません。


話しあい?

一体今更何を話しあおうと言うのだろう。


家の電話の子機を握りしめ、指が覚えた番号をプッシュする。


TRRRR
TRRRRRR


「はい!」


コールしてすぐ、
随分懐かしい、大好きな声が聞こえた。