そんなに私の顔が好きなの?しょうがない子達ね。


一回自分の顔鏡で見たことあるの?

この私に、下手なモーションは通用しないわ。




私はやや背伸びをし、目と鼻の先にいる男の頬に軽いリップ音をたてたキスをした。


嫌だから、つい表情を崩したくもなる。

でも、妖しく微笑む私に梨磨以外気付くはずがない。


放心状態の彼等にそっと耳に口を近付け「さよなら」とだけ言い校舎から出た。


その後を梨磨は小走りでついてくる。








校門を出たところで、梨磨は私の前に回り口をひらいた。




「こころ…」


「ん?良かったわね何事もなくて…」


「こころがあんなことしなくたって、あんな下等な奴ら私がのしてやるのに…!」


「梨磨が人を殴ってしまえば拳が痛むでしょ?」


「私がこころを守るって言ったじゃない…」



言った、確かにね。

でも、梨磨のその気持ちだけで十分よ。


中学三年の秋の終わり。私と梨磨はそこそこ学力の高い同じ高校に進路が決まっていた。

だけど、



卒業間近に梨磨は一人の男をボコボコにしてしまった。

理由は、その男が私を路地裏に引き摺り込んで犯そうとしたから。


悪いのは男。だけど、そう上手くは事は運ばなかった。

梨磨の殴る手は止まらなく、目の前の男しか目に入っていなかった。



男は意識がなく、取り返しのつかないことになったとこの時初めて思った。

理由が理由だとしても、梨磨の手が一人の男を殺めてしまったのは事実。



正当防衛としては認めてもらえたから簡単な取調べだけで済んだけど問題を起こしたことには変わらない。

うちの学校は進路先に合格の取り止めを申請したんだ。さすがにうやむやにすることができなかったみたいで。



私はとめどない罪悪感に押し潰された。

でも梨磨は笑ってなんてことのないように言った。


この時期に取り下げはマズイ。どの高校も一杯だった。入れるのはこの常崎のような荒れた学校のみ。


他にもこの手の学校はあったのにも関わらず、梨磨はこの学校を選んだ。