『相談者
高校教諭 xx歳 男性

Q.とある理由で、職場ではほぼ毎日同じ指の同じ場所に絆創膏を貼っているのですが、おかしいと思われますか?』


『A.貼らなければいいんじゃないですか?無理なのなら、まず理由を教えてください』



「出来るかっ!」

言えもしないし、貼らない事はもっとできない。
もうとっくに2桁目に入った箱から取った絆創膏を剥がしながら、俺は叫んだ。


「どうしたんです?」

当たり前のように同じ家にいる彼が不思議そうに首をかしげる。



「おい、これ、一体いつまで続ける気だ?」

左手の薬指を指しながら問う。

「ははっ、ようやくですねー」

もっと早く言われるかと思ったのに。
そう笑いながら俺の手をとった。


いつものように噛まれるのかと、思った感触は無い。

代わりに少しひんやりした温度を感じた。
視線を落とすと、金属製の輪がはまっている。

何で彼は、俺の指のサイズなんて知っているんだろうか。
ぴったりとはまる輪に、ぼんやりそんな事を考える。



「……ぶっちゃけ、法律なんて変えられる気がしないんですけど。
でも、やっぱり一緒に居たいです」

自分の指を見つめたままの俺に、彼は続ける。

「いつかが来るまででいいんです。
いつかまでずっと、俺と一緒に居てください」


いつかなんて、いつの事だかさっぱり解らない。
知らないものが、来る訳もない。


「……しょうがねえな」

いつも笑っているのに、時々真剣な顔で、瞳は不安げに揺れる。
そんな彼に気が付いた。
ほっとけないと、それは好きなのだからと、最近ようやく受け入れられた。


やってこない日まで、一緒にいてやろう。
長く待たせてしまったから、それより長く、ずっと長く。


絡められた指を握り返しながらそう思った。


とりあえず俺のするべき事は、


「で、お前指輪のサイズ何号だ?」

その問いかけに、彼の顔から暗い色が消え去る。

そう、笑っていればいいんだ。


解りにくいセクハラみたいな愛情表現じゃなく、笑顔を向けられる方が、よっぽど解りやすい。

俺の方からも、わかりやすい表現方法を模索しよう。
でも絶対、その方法だけはネットで相談すまい。

それだけは決意しながら、ノートPCを閉じた。




「ありがとな、嬉しいよ」

改めてそう伝えると、本当もう、幸せそうな顔をされた。

その笑顔に、好きだなあと、思った事をそのまま言おうと口を開く。


同じ言葉が返ってくるのだと当たり前に思える事がどれほど幸せな事か。

今はもう知っている。



END