「……せ、先生」

「な、何だ?」

あれ、俺、何でこんな事したんだろう。
そうだ、イラついたからだ。うん、そうだ。

沈黙の中我に返り、そんな答えにたどり着くと、益田が口を開く。今度はまともな意味で。


「俺、」

「うん?」

わなわなと震える唇は落ち着きがなく、すぐに途切れる。
そこで一度深呼吸をして、彼は言葉を再開させた。


「一生左手、洗いません!!」

パアっと明るい光のような顔でそんな発言をした。

「いや、洗え!すぐ洗え!今すぐ洗ってこい!」

あれ、コイツ本気じゃないか?
そう感じた俺は、彼の手を引いて教室近くの手洗い場まで連れていく。

さぁ!と蛇口を捻って自分の手ごと水流に突っ込むと、渋々手を洗い出した。




「お前もちゃんと絆創膏貼っとけよ?」

鞄に入れていたタオルで手を拭く彼にそう忠告する。
赤い指を見てると居た堪れなくなってきた。

「あ、さっきのが最後の1枚なんで無理です!」

なんでそんなに、楽しそうな顔をする。


「ちょっと待ってろ!」

また教室に戻り、そのまま彼に待つよう言い、俺は一旦学校を出た。

そして近くのコンビニに行き、絆創膏を買う。



「あ、おかえりなさい」

戻ると指示通り大人しく待っていた彼の指に絆創膏を巻いた。



「……これ、一生大切にしますね」

巻かれた所を見て、さっきと同じような事を言った。

「言っとくが俺は適当に貼りかえるからな?」

さっき買った残りの箱を渡し、もう1箱買った物も見せる。

「じゃあ1枚は使わないでとっておきます」

……何をどうあっても、何かは後まで残す気のようだ。



なんだかすべて、彼の思い通りにしかなっていない気がする。

この先も、もしかするとそうなのだろうか。
そうなってしまったら、まぁ。


……しょうがないか。


男に二言はないので、本当に法律が変わってしまったら。
その時は抵抗を諦めて、考えてやることにしよう。