みんなと一生逢えなくなると思ったけれど、さよならは言わなかった。

さよならを言ったら、それが現実になってしまう気がしたから…。

引っ越した先はものすごく田舎で、今まで住んでいた家と違い、すごく狭かったが、何も文句を言うことなく生活していた。

「幸一君はお手伝いもして良い子ね~!おばさんもこんな子供がほしかったわ。」

朝幸一がやっていたゴミ出しをするたびに、近所のおばさんに言われたが、幸一には良い子の意味が分からなかった。

転校してからの学校生活は偽りでしかなかった。

どうしたら友達が出来るか分からなかったから、いつもニコニコ笑い、周りに話しかけては冗談を言って笑わせていた。

その甲斐もあって、転校した小学校で人気者になるまで時間はかからなかったが、幸一の心が満たされることはなかった。

それは、父親は弟のことはものすごく可愛がり、母親も弟にいつも付きっきりで遊んであげるけれど、1人だけ蚊帳の外にいるような環境だからだ…。

辛くて泣きたいと思ったことはたくさんあって、引っ越した家では自分の部屋をもらえたから、いつもベッドで泣いていた。

幸一が目にしていた光景は、小さい頃から憧れていた家族がそこにはあったから…。

でも、その光景に自分の姿は入っていない…。

幸一が入ると、その光景は一気に変わってしまうからだ…。

だからこそ、自分は生まれてきてはいけない子供だったのだと思うようになったが、何とか笑顔を作り、ずっと生活してきた。