「もうお父さんはいないの…。」

「え?どうして?」

小学3年生のある日、母親の口から出た言葉の意味が分からなかった。

ただ仕事で帰って来られないだけなのだと思っていたけれど、何日経っても父親が帰ってくることはなく、時間が経ってから母親に理由を聞かされた。

「お父さんは病気で倒れて、死んじゃったの…。」

幸一の父親は末期の胃癌で突然倒れ、そのまま亡くなってしまった…。

その言葉の意味が分からなかった時も、自分の言葉を飲み込み、絶対に泣くことはなかった。

自分が泣いてしまったら、母親を困らせると思ったから…。

父親が亡くなってから、前以上に1人の時間が増え、普通の小学生じゃやらないこともやることになった。

ご飯を誰かと食べるなんて月に1度あるかないか、料理や洗濯、掃除もすべてやることになったけれど、文句も言わず、何でも1人で頑張った。

周りの友達を見ても、こんなことをしている人なんて誰もいなかった。

そんな現実が自分の家は普通の家じゃないということを実感させた…。

普通じゃないと実感すればするほど、心の中で寂しさや虚しさが膨れ上がったけれど、泣き言を言うことなく、毎日頑張っていた。

泣き言1つ言うことなく頑張って生活していた小学4年生のある日、幸一に父親が出来た。

再婚の意味も知らなかったが、自分に新しい父親が出来たことを純粋に喜んだ。

周りの友達と一緒の家庭になれたと信じて疑わなかったが、そんな甘い現実は訪れなかった…。

幸一に訪れた現実は、暴力だ…。