そんな現実の中で、幸一は友達の家庭に憧れた。

クラスの友達は良い点を取れば褒めてもらい、どこかにご飯を食べに行く。

それが羨ましくて仕方がなかった。

友達の家に行けば温かく迎えてくれる友達の両親がいて、いつも優しく接してくれて、笑顔で食卓を囲む家族の姿がある。

そんなありふれた光景は、幸一の家にはない光景だ…。

父親は毎日仕事で遅くなり、母親は祖母の仕事の手伝いで夜働いていたから、幸一が食事をする時はほとんど1人で、笑い声など聞こえない…。

いつもテレビから聞こえる音を聞きながら、1人でご飯を食べるのが大半だった。

それでも、泣けば母親を困らせ、父親にも嫌われると思い、泣くことはなかった。

文句も言わず、いつもニコニコしていれば、いつか父親も笑いかけてくれると信じていた。

でも、そんな日は来なかった…。