「な、何があったの…?」

幸一が仕事を終え家に帰ると、真っ暗な部屋の中央に呆然と座り込んでいる母親の姿があった。

「―――行った…。」

「え…?」

「出て行った…。」

就職した初めての夏、幸一が19歳になったばかりの時、父親が失踪した…。

母親は38歳、弟は7歳、あの悪夢から解放された。

就職したから好きなことをやりたかったけれど、まだ幼い弟もいるし、どうやっても生活していける環境ではなく、幸一も給料の一部を家に入れることにした。

家にお金を入れることに対して、嫌だと思うどころか、あの悪夢から解放された喜びと、自分が支えていかなければならないという責任感が芽生えていた。

前よりも真面目に仕事をして、忙しく生活する中で、ふと自分自身を客観視した時、幸一はこう思った。