「あや、さん?」



そう小さく聞こえた声に
振り向く事なく店の外へ飛び出した。



気付かれた?

だけど恐くて後ろを振り返ることなんて出来ない。


今、あたしが来てた事がバレたら、仁はどんな顔する?


迷惑。

それとも困惑。


どっちにせよ、
あたしは来てなかった事にしたい。

今見た事、
全て知らなかった事にすればいいんだ。



そうすれば、誰も傷つかない。

……あたしは傷つかない。



流れる人込みに交じった瞬間、
後ろから腕を掴まれ無理矢理振り向かされた。



「……やっぱりっ!」



少し息の切れた仁が、
そこには居て。



「来てたん?」



不思議そうな顔で言った。



来ちゃ悪かった?

あたしの心は狭い。


こんな事を思ってしまう。



「……あ。うん。だ、だけど忙しいみたいだし、帰るね!」



必死に笑顔を作った。

顔に出したくない。

笑っていたい。


だけど、仁の目を見ることは出来ない。