駄目だ、帰ろう。


そう思った時だった、
仁がこちらに歩いて来た。


咄嗟に持っていた雑誌を読むふりをして、
耳にかけていた髪をおろし下を向いた。


あたしに気付かず、
横を通り過ぎる。



何であたし隠れてんの?

なんて思いながらもホッとしてる、あたしがいた。



「おい、仁。可愛いじゃん」



商品を渡した仁に駆け寄った一人の男の子。

その言葉にドキンと心臓が跳ねた。



「はぁ!?」



聞いた事もないような仁の低い声。



「またぁ。照れんなって」

「そんな事より先輩、仕事して下さいよ」



いつもあたしを“綾さん”そう呼ぶ優しい仁の声じゃない。

バイト先の先輩との会話だからなのかもしれないけど。



「お前、モテるよなぁ~。あの子は彼女だろ」

「そんなん違いますよ」

「またぁ~。さっき仁の彼女? って聞いたら“そうでーす♪”って可愛く言ってたぞ?」

「……また、アイツは」



ボソッと呟いた仁に、
先輩のケラケラ笑う声が聞こえて。



「はい。それよりコレ運ぶの手伝って下さい」



そう後ろの席を片付け始めた。