「送って頂いてありがとうございます」



山北さんに支えられていたあたしの腕を引っ張り、仁の方へ引き寄せられた。

あたしの体は、
仁と山北さんの間を本当に人形のように移動した。



「親みたいなことするんだね」



そう馬鹿にしたように笑う山北さんの言葉に、
仁が掴む手に力が入ったのがわかった。



「じ、ん?」



あたしが見上げても、
仁は無表情のまま山北さんを見つめている。



「じゃあ、綾乃ちゃん。
また明日ね」

「え? あ、はい……」



そう重い空気だけを残し、
山北さんはタクシーに乗って帰ってしまった。


無言の仁を見上げると、
無表情で遠くなるタクシーを見つめたままで。


怒ってる顔でも、呆れた顔でもない。

その表情から何にも感じ取れない。



「や、山北さんって意味わからないよねー」



その場の空気が重くて、
わざと明るい声を出す。



「今日ね、新入社員歓迎会の打ち合わせだったんだ。
ほらメールしたでしょ?
歓迎会の場所決めだったんだけど、暇だったから飲んじゃって。
いらないって言うのに送ってくれてね? で……」



あたしの空回りする声だけが響く。