「部屋! 入ってて」
「は? 綾さん、どっか行くん?」
「えっと……10分、いや5分でいいから!」
髪を梳かして。
前髪をおろして。
もう少しマシな服に着替えて。
眉毛くらいはかきたいっ!
額に手を当て、
仁に背中を向けて駆け込もうとした洗面所。
それなのに、
それを仁は許してくれなかった。
「あぁ、なるほど」
そう言いながら、
あたしを部屋の奥へと引っ張って行く。
いや。
ちょっ、待って、仁。
わかったなら尚更、洗面所へ行かしてーー!
そのままベッドに腰掛け、
あたしは向き合う形で座らさせられる。
勿論、前には仁の顔がドアップで。
「いや、ちょっとこれは……」
洗面所へと向いた体勢、泳ぐ目、言動、全てが挙動不審。
それを見てクスクスと笑い、
「そのままで、えぇよ」
「え!?」
ってバレてた!?
そのままでいいって、よくないし!
額に掌を当てたまま目だけを動かすと、
優しく笑った仁が少し哀しげな表情へと変わった。