「あーれ? 仁ちゃーん、どしたの?
あっ! もしや俺待ち?」



流れ出て来た人込みから、
敦がヒョコっと俺に飛び付いて来た。

背中が重くなってバランスを崩しそうになる。



「敦、退けや」

「うっわ! 恐っ。
朝から冗談通じないなんて駄目、駄目!」



背中から離れ、
俺の前に回り微笑む。


敦のせいで……、見失った。


上から見下ろし、



「お前のせいやからな……」



そう呟き歩き出すと、敦は



「えっ? えっ? 何が?」



って焦って着いて来た。



敦達が隣で、くだらない指ゲームをしてお昼のジュースをかけてるのにも加わらず、考えていたのはさっきの女のこと。


全く俺に気付いてへんかったよな。

まぁ、擦れ違っただけで話したこともないし。

俺が覚えるくらいに、
向こうが俺に対して強烈な印象があるわけでもない。


たったそれだけのことやねんけど……何か腹が立つ。



覚えられてなかったことが?

……なんでやねん。



「うっわー。負けたぁ」



そう大袈裟なくらいに凹む敦が、ゲームに負けたらしく。

ゲームに参加してない俺も、敦だとわかれば奢ってもらう。