あ、こいつ。

覚えのある顔にハッとした。



確か、敦の姉ちゃんのツレや。

敦ん家に行くと、
たまに来てる女やと思う。

会った、というよりも擦れ違ったことが1回か2回あるだけなはず。


何で顔を覚えてたんかは謎やけど。

敦の部屋で寝ようとする時に限って、
煩いから覚えてたんかな。


確か……綾乃? とか言うてたような。


いつも聞こえるセリフには

『男なんて~』

って叫んでた気がする。


敦曰く、よく振られる女や。



「ありがとっ♪」



手を伸ばし、
グロスを取ろうとする。


一瞬、俺の指先に少し触れた部分がめっちゃ熱くなって。

そこに熱が集中して。



「えっ?」



その声で我に返った。

俺の手から取ろうとしてるグロスを持つ手に、
知らぬ間に力を入れてしまっていた。



「あっ、すんません」



意図も簡単に俺の手からスルリと、消えたグロス。