「やだぁ~」



鞄の中身を俺の前で撒き散らし、
泣きそうになりながら拾い集めてる女が目に入った。


あーぁ、可哀想。

そう思いながら、
それを見つめてても誰も助けたりしない。


隣を通り過ぎる奴等も横目で見ながら『可哀想』そんな哀れむ目をしている。

皆、俺と同じや。



その時、

俺の足元へとコロコロ転がって来た化粧品。



……口紅?

面倒臭いなぁ。



そう思いながら細長いソレを拾い、
しゃがみ込んで拾った物を必死に鞄に掘り込む女の前に立った。

俺の靴に気付いた女が、
ゆっくりと視線をあげる。

そして俺の差し出した手の先にあるソレを見て、



「あっグロス」



そう言って俺の顔を見上げたんだ。



――ドクンッ


血液が脈打つ。

体中がカッと熱くなった。



そう言いながら
俺に微笑んだ女を見て固まってしまった。



柔らかそうな髪を耳にかける仕草。

白くて綺麗な肌。

ほんのりピンクの唇。

大きなパッチリとした瞳。

優しそうな笑顔。