「好きです。付き合ってください」
ついに言ってしまった。
人生で初めて男の子に告白をした。
相手は、1年の時から同じクラスの藤咲大和(ふじさきやまと)くん。
席も近かったり、委員会が一緒で何気に話したりすることが多かった。
藤咲くんはお話も面白くて、何より優しい人。
みんな用事があるからと、掃除を押し付けられた時も黙って手伝ってくれた。
「塾だ、習い事だ、って言ってやることやんねぇ奴が上達できるわけがない。朝宮を見習えってんだ」
そう言って笑ってくれた。
もうその顔を見れただけで、一人での掃除も辛くなんてなかった。
多分、その時から好きになった。三年に上がってクラスが離れてしまった。このままただの同級生でいたくなかったから、思い切って告白した。
昼休みは屋上にいることの多い藤咲くんはお弁当を食べながら文庫本を読んでいた。
最初、何から話し掛けようと考えながら藤咲くんの元へ向かう。
「お、朝宮か。お前もここで昼飯か」
「うん。一緒に食べても良い?」
「おう。こっちどうぞ」
藤咲くんが自分の隣を叩いて座っても良いと言ってくれた。
「クラス離れたからな、朝宮と話すの久しぶりだな」
「そうだね。新しいクラスどう?」
「ん〜、去年ほどじゃねぇな。みんな勉強勉強で、話しもろくにしねぇし」
一応、ここは進学校だから。ましてや藤咲くんのクラスは国立大学進学クラス。私は美大を目指しているからクラスが離れてしまった。
「朝宮はオレの話しを何でも興味ありって顔で聞いてくれてたからさ…」
だってそれは、藤咲くんが好きだし。好きな人のことはどんなことでも知りたいと思ったから。聞いてたら実際、藤咲くんの話しはためになるし、面白い。
「勉強なんて基礎をしっかりしてりゃ応用が利くもんだ。授業中は勉強する時間だろうけど、あとはしなくても良いだろうよ」
それは藤咲くんだけだと思う。藤咲くんは尋常ないくらい頭が良い。勉強すればテストの点数がとれる人は沢山いるけど、藤咲くんは、一度聞いて覚えてしまえばどんなに時間が経っても覚えている。
漢字でも数式でもすぐに思い出して問題を解いてしまう。数学の先生の中には、毎回藤咲くんにだけ特別な問題を持ってくる先生もいた。
でもそんな頭の良いとことか関係なく私は藤咲くんが好きになった。
「良いよ」
返事を聞くまで、藤咲くんの顔がみれなくて、
下を向いていたら、その返事が帰って来て、思わず顔を上げた。
「朝宮なら良いよ。付き合おう」
「ホント?」
まるで夢みたい。藤咲くんと付き合える。
恋人になれるなんて。
「ただし」
夢に酔いしれかけたとき、藤咲くんは私に一冊の本を渡して来た。
革のカバーがかけてある本。なんの本だろう?
まさか英語の本とかが読めるようになることが条件とか?
英語とかさっぱりできませんよ。
「英語とかできません」
最初からそれはお伝えしないと。
「オレもできねぇよ。そうじゃなくて」
恐る恐る本を開いて見る。タイトルは、『イグニッションラブ』。恋愛小説なのかな?
女の子が読むような本が好きで、それが恥ずかしいとかなのかな?
本は私も好きだし、恋愛小説も見るから大丈夫。
あ、挿絵もついてる。
ライトノベルなのかな?
ペラペラっと挿絵をめくると、少女漫画っぽいイラストがあった。
メガネをかけたクール系な男子高校生と、白衣を来ている、少し幼顔の先生みたいな男の人が並んでかいてある。
挿絵の絵が私の好きな漫画家、穂鳥氷樹で、少し興味が出てきた。
もう一枚挿絵をめくると、その二人が汗だくで絡みあっている。
スポーツをしてるわけじゃなくて、抱き合って、男女の関係の極みみたなことをしてる…。
挿絵の隣の文章を見ると、かぎかっこの中が、やたらと母音が並んでいる。
官能小説でもない。だってこれ男同士。
これって確か
藤咲くんを見ると、ニヤッとした、してやったりみたいな顔をしている。
「BL小説。オレ腐男子だから。それでもよければ付き合う」
なんか究極の選択を迫られているような雰囲気だ。
「よろしくお願いしますっ」
BL小説を握りしめて、頭を下げ、手を出した。
こんなシーンどっかでみたことある。
私は藤咲くん腐男子だろうと関係ない。
藤咲くんが大好きだと心から叫べるから。
「こちらこそ。よろしく、千鶴(ちずる)」
ギュッとその手を握られた。
名前、知っててくれたんだ。
顔をあげると、藤咲くんはさっきのしてやったり顔じゃなくて、ニッコリと笑っていた。
その顔がかっこよくて、思わず見とれてしまった。
「じゃあそれ、きっちり読んでね」
と小説を指差して来た。
「はい」
「オレ色に千鶴を染め上げてあげる」
いきなり耳元で、囁かれた。
私の生活が大きく変わった。
腐女子とは、男同士の恋愛を描いたものを好む女性たちを婦女子をもじって称した言い方。
単なるアニメやマンガ好きの女子のことを腐女子と言うと怒られるらしい。
そこの位置を混同してはならない。
腐男子とは男同士の恋愛を描いたアニメ、マンガを好む男性のことを称する言葉。
腐男子はマイノリティーみたいだけど、悪いことじゃない。
貸してもらった小説は、うっかりときめいてしまった。
ケータイで様々なBLの定義を調べてみた。
必ずハッピーエンドを迎えるということ。
女性との絡みはNG。
男同士ということにこだわってはいけない。
藤咲くんに借りたBL小説は少女マンガ以上にときめきが多かった。