なんて
無責任なことを言う。



「小枝さんが、
泊まり込むならどうぞって。
熱入っちゃってさあ」



何だよソレ……?


もはや驚きを越え、
菜野花は心底呆れていた。




母親とは、何て勝手な
生物なのだろうと。


ただ、
本題はそっちではない。



「…やって…
みようか……な?」



時間が無いのは承知済み。




あとは、努力するしかない。



「ホントッ!?」



柊荘司のテンションの
上がりように、
菜野花は自然と微笑む。



「「別れの曲」は…
好きだから。
弾いてみせましょう」





第四音楽室から、
怒鳴り声がなくなってきた。


代わりに、
ピアノの音が
途絶えることなく
響かせてくる。

しょっちゅう
止まってしまうけれど。



「ノリィ?」



彼からの返答は無い。





「栫?
……蛤?
何だコイツ…
どうしたの?」



「……さぁ…」



蛤斉は肩をすくめて
「?」を示した。


帝波津にもわからない。

最近の栫徳重が
日増しに
怪しくなってきているという、
客観的なことしか。




コンクールに向けての
調整は順調だった。


私事で言えば、
ピアノも波に
乗ってきたから、
栫が心配することといえば、
自分の体調管理だろうか。



「…………」



無口なこいつも気味が悪い。

何が原因……?





「わかった。コイツ……」



隣に立った蛤斉を
せっついて説明を
求めてみた。


彼は喋らず口パクで、
「よく聞け」と言った。


素直に従うと、
ピアノが小さいながらも
聴こえてきた。




A棟の最も体育館寄りが
この教室で、
四音がB棟だが
A棟寄りに
位置していたお蔭で、
窓さえ開けておけば
ちゃんとピアノは
聴こえてきた。


今の時期、
十二月に入ってしまったから
寒いのは覚悟の上だが。





「ピアノね……?」



帝波津が、
その音を掻き消さないように
小声で蛤斉に確認した。


彼は、頷いてみせた。