「みんなに提案があるんだ。以前から一人で行こうと思っていたんだが…。」


ケンジの言葉に、全員がケンジのほうを見た。



「裕美は、この街から出たことがない。初めて街を出ようとしたあの日に、その命を奪われてしまった。」


ケンジの現在進行形の表現に、四人は黙り込んだ。



そんな親友たちを横目に、ケンジはゆっくりとワイングラスを取ると、軽く揺らした。


「だから、このノートに宿る裕美を、連れて行きたいんだ。この街の外に。」


あまりの現実離れしたことに、三人は黙りこくってしまった。


その様子を見て奈央が不安そうにケンジの方を見た。



「わかった。」


やがて一人、土門が真剣な顔で頷きながら、そう言った。



「なあ、みんなも、ケンジに協力してあげられるだろ?お盆休みだよな?」


「うん。私は大丈夫。」


土門の提案に、向かいに座る香澄は強い口調でそういいながら、土門の隣に座る尾上のほうを見た。



「俺だって、もちろん、協力するに決まっているだろ。」


ぶっきらぼうにそういう尾上の表情を見て、奈央は可笑しくなってきた。



やや毅然とした印象の尾上が、なぜか高校時代から香澄には弱い。




この場にいる仲間は誰一人、何よりも裕美がたった一人で天に召されるのを、黙って見ていられる訳がなかった。