少女は振り向かない。
しかし、僕は見逃さなかった。少女の肩がピクリと反応した事を。聞こえていない訳ではない。意図的に無視しているのだ。
「暗くなったし、危ないから帰りなよ。ウチの人も心配してると思うよ」
反応がない。
くそっ!!
放っておくか?
でも、川に浮かぶ女の子が・・・というのも笑えない。
どうしたものかと思案していると、少女が不意に右手を天に伸ばした。
いつの間にか、その手には身の丈ほどある杖を持っていた。
杖・・・?
修験者が持つ杖と同じ様なそれは、少女には余りに似つかわしくないものだった。
少女が杖を揺らす。
するとシャリンという金属音が天高く響き渡り、大気が大きく揺れた。
その光景を目にした瞬間、意味もなく、少女に対し畏怖の念が湧き上がってきた。
何者なんだ?
この時ようやく、僕はこの少女が普通ではない事に気付いた。