少女の隣に立ち、視線を合わせてみる。

 少女は川を見ている訳ではなく、一段高いこの場所から街を眺めていた事が分かった。


「澱んでいる」

 少女がポツリと呟いた。


 結局、少女は僕と会話する事はなく、ただ超然と立ち続けていた。あの立ち姿は、少女というより、悟りを開いた僧侶といった雰囲気だった。

 帰宅すると、今日も祖父の姿は何年も使っていなかった作業場にあった。しかも、10年以上前に神社から譲り受け大事にしてきた、自慢の神木を彫っている。

 作業場の引き戸を開け、祖父に声を掛ける。


「何が見えたの?」
「忘れ去られたモノ」

 忘れ去られたモノ?


 それから、祖父は何かに取り憑かれたかの様に、昼夜を問わずノミを握り続けた。

 まるで、完成までの期日があるかの様に。