朝から気分が悪い。
また彼に嘘をつかれたからだ。
「…ちゃん!姉ちゃん!」
何度も呼ぶ声にあたしはしばらく気づかなかった。
声のした方を見ると、弟がテーブルの向かいに座ってあたしを呼んでいた。
「今、呼んでた?」
「何回もね!なにボケてんの?」
「別に!何か用?」
「姉ちゃんの言った通りだったよー」
「何が?」
「鍋島カツラ疑惑」
そう言えば、そんな事を弟に教えたなって思った。
あたしの母校に入学した弟に、話題を提供したんだった。
「疑惑ってか、みんな知ってたわよ。周りは知らないって思ってるのは本人くらいでしょ」
「そんな感じだった!」
「でもいい先生だからあんまりイジメないでね」
「そうだなー」
弟と話しながらチラリと時計を見た。
「もう会社行かなきゃ」
立ち上がったところで、携帯が鳴った。
電話の相手は知哉(ともや)だった。
あんなに待っていた知哉からの電話が、今ごろなわけ?
'もしもし'の代わりに、あたしは皮肉たっぷりな言葉で電話に出た。
「今は夜中の12時なんだ?!知哉って外国にでも行ってんの?」
『里佳(りか)…ゴメンって』