『To.真奈美
  これから帰るよ』

───送信、と。

帰る前に嫁さんに送る'帰るメール'は
もうすっかりクセになっていた。

それは結婚当初から続けていた事。

送らなかったのはケンカした時くらいか…あとは本気で二人の仲が悪かった時くらい。

嫁さんにメールも送ったことだし、さぁ帰るかって感じでカバンを手にした時
同じ課の女の子が声をかけてきた。

「あ、牧野さん帰るんですか?」

「そう。何かあった?小松さん」

「あのぅ…どうしても数字が合わなくて」

彼女は言葉少なめにではあるが、要は手伝ってほしいような素振りをみせていた。

小松さんは入社してまだ半年くらいの子だった。まだまだ慣れなくて心配なところもあるって事は知っていたけど…

他に誰か居るんじゃないか?

オレじゃなくて、普段から彼女の面倒を見てる子とか──

そう思って周りを見回すと、ほとんどの奴は帰った後だった。

残ってるのは部長…

…じゃ可哀想か。

オレも彼女の仕事は全て把握してるワケじゃないけど、このまま終わるまで残業させるのも気の毒だな。

「…わかった。役に立つかわかんないけど手伝うよ」

「えっ、ホントですか?!」