必死に伸ばした手を、私は両手で支えて握った。

何年ぶりかに触れた夫の手は…シワだらけで皮ばかりだった。

「…いつも…家の事をし…てくれて…あ…りがと…」

「…!」

「最期ま…で…妻でいてくれて…ありがとう…」

──夫婦になって、初めての感謝の言葉が

今ごろなの…?

もっと早く言って欲しかったわ。
そうしたら…もっと優しくなれたかもしれないのに。

でも凄く嬉しかった。例え最初で最後だとしても

報われたような気がしていた。

「ずっと…愛して…いた…よ…こんな男を…見捨てずに…いてくれた…

妙と…結…婚して…良かった…」

「あなた…」

私の目から、涙が溢れだした。
ずっと欲しかったものを手に入れた時のように感激してる。

「ありがとう…こんな私を愛してくれて…ありがとう…」

私が泣くのを見て、夫はマスクを外した。

「妙…キスして…いいか…?」

──付き合ってた頃によく聞いたセリフ。

懐かしさと共に恥ずかしさが溢れてきた。

「…嫌だわ…私…もうおばあちゃんなのよ…」

「妙は…昔と変わ…らない…幾つになって…も…綺麗なまま…だ」

「…」



求められるまま───私は唇を重ねた。