「すぐに戻ると思うから…起きてられる?」

最期に一目会わせてあげたい。
子供達や、孫達から
少しでもいいから声をかけてあげたかった。

ちょっと苦しそうに夫は答えた。

「起きてられる…と…思うよ…大丈夫…」

肺はすでに異質なものに浸食されて、使えなくなっている。

かなり苦しいのはわかるのに、それでも夫は'痛い'とは言わなかった。

代わりに何故か私の事を気遣う。

「ちゃんと…寝たか…?ご…飯…食べたのか…?無理する…な…」


───もう終わる。





もう…会えない。





若い頃は、憎らしくて仕方なかったのに…

どうしてこんな気持ちになるのかしら…?




看護師の田辺さんを見ていて、いつも思っていたわ。

私があんな風に優しい女性だったら、夫も幸せだったでしょうね。

彼女と楽しそうに笑う夫。私に…笑顔を見せなくなったのは、きっと私のせい。

どうして今ごろ、こんな風に思うのだろう。

夫が必死に話しかけてくれる。
返事の代わりに私はこう答えた。

「ごめんね…私、いい奥さんにはなれなかったわね…」





「妙…そんな…事…ない…よ…」

夫は笑顔で答えた。