実感のないまま、夫が居なくなりそう。

照明を落とした部屋の中で、機械と夫の呼吸音だけが響いている。

まだ…生きてる。

先生は朝方と言ったけど、結局は持ち直して元気になって退院して、ガンも克服して

また私をイライラさせたりするんじゃないかしら?…そんな期待もあった。

…期待?
何をバカな事言ってるのかしらね。

終わることにホッとしててもおかしくないと思うのに…
何故、生きててほしいと思うのだろう?





夜明けが近くなって、子供達が外出する支度を始めた。

「母さん、子供達を連れてくるから。少しの間大丈夫?」

「大丈夫。気をつけて行ってきなさい」

「うん」

子供達が出て行き、誰も居なくなった病室。重苦しさが怖かった。

五分ほどすると、夫が目を開けた。

マスク越しに夫は久しぶりに私を名前で呼んだ。

「…妙…?」

このまま息を引き取るのかと思っていたから驚いた。

これが本当に最期の会話になるんだと…私は初めて理解した。

「気分はどう?まだ痛い?」

「悪く…ないな」

嘘をついていることはすぐに分かった。

「妙、一人か?」

「ええ、あの子達は孫達を呼びに家に戻ったわ」