その恋人の南條舞。
高校まで涼と同じ城西高校でクラスを共にした同級生。大学は学部の問題から別々に進学した。
そのせいか、もう離れたくはないと、涼の強い希望から大学卒業後2年の社会人経験後一緒になろうと、両家の親を説得した。
舞の親は偶々勤務していた会社が塩谷商事の子会社だった事から、婚約を機に待遇を大幅に変える職場に栄転させて貰った。それはあくまでも、塩谷の父の一存として。
全て順調な2人の交際と前途。


この日の舞は、その結果精一杯お洒落してホテルのラウンジに居た。たまには1人で大人の女性を気取るのも悪くないと、そのままそこで1杯のカクテルをオーダーした。

その周辺には、一流ホテルに相応しい紳士淑女が、仕事やプライベートで居合わせている。
その一角に自分がいる事で、ドラマか映画のワンシーンを撮っている様な気にさえなって来るのが不思議だった。
そこへ
「南條・・・舞さんじゃないですか?」
名前をフルで呼ばれて、驚きその相手に視線を向けた。
50歳位の続に言うロマンスグレーの紳士がそこに居た。
舞は一瞬顔を想い出せず、頸を傾けたが間も無く想い出した。
確か、その紳士は塩谷商事の常務・塩谷宏宗。涼の父の弟で叔父に当たる人物だった。
半年前、恋人として正式に塩谷の家でパーティーがあった際に身内に紹介された舞。その席に宏宗も同席していた。
その叔父・宏宗には舞より2歳上の息子がいる。その息子は、舞と涼の出身高校と同じ城西学園を出ている。それ以降はそれぞれ別の大学に進んだ。
その子息は、今はレストラン経営をしている。レストランと云えどもその規模は大きく、チェーン店を全国に展開するまでになった若きやり手の経営者。その為、今正に時の人と成り新聞雑誌に取り上げられる程の宏宗自慢の子供。
そして、妻は妻でフラワーアレンジメント教室を持つ忙しい女性。
その結果、時折気が向くとホテルに飲みに来るのだと舞に気さくに話した。