「見るよ。そこまで歩いたら、夢が醒めるの」


いつもいつも、夢から醒めるのは同じ場所。

彼はそのラインよりも向こう側。

あたしよりも、あの塔に近づけるんだ。


「あの塔に行きたいの?」


彼は不思議そうな表情のまま、あたしを質問攻めにしてくる。

行きたくたって行けないんだよ。


「いつもそこで目が醒めちゃうから、行けないよ」


だからつっけんどんに答えてやった。

あたしより近づけるんだからいいじゃない。

勝手に人の夢に出てきて、気にしてることを言わないでよ。

そもそもこの男の子は誰なわけ?

知らない人が夢に出ることってあるんだ?


「いつも?」


それにはもう黙って頷いてやった。

そうすると彼はいきなりにやりと笑い、自らを指さしながらまた言う。


「……いつも?」


あぁ、そっか。

彼が出てきた時点でいつもの夢じゃないんだ。

あたしは一歩踏み出した。

それからもう一歩。


いつもなら夢から醒めるところまで来ても、あたしは夢の中だった。


彼はぱんぱんとゆっくり手を叩く。

まるで拍手するみたいに。


「……俺もあの塔を目指してるんだ。一緒に行かない?」