どれぐらい眠っていただろう。

意識の途絶えている間の記憶はないけれど、全身のけだるさがその長さを想像させる。


「……起きた?」


声をかけられて、ぼやけた視界をぐるぐる動かす。

やがてそれが少しはっきりしてきたころ、声をかけてきたのがバクだって分かった。


「あれ、あたし……ここ、夢?」


それは見慣れたあたしの部屋の中じゃなければ、見慣れた夢の中でもなかった。

黒くてぼやぼやしたものが周りを取り囲んで、閉じたままになった色んな扉がふわふわ浮いている、変なところ。


「夢じゃないよ。ああもう……自分の心を握り潰す馬鹿は初めて見た」


「え、っちょ、あたし、握り潰したの!?」


思わずがばりと上体を起こした。

すると彼は、はあっとため息をつく。


「そうだよ。ほんっと呆れる。蝶は消えちゃったよ。俺も食べてない」


心底見下したような目で、呆れたように言うバク。

蝶……掴んだところまでは覚えてるけど。