「うそつき。ここにいるあたしは心の表面で、その蝶が核なんでしょ? お互い引きあってるんでしょ? 触れられないはずがないじゃない」


「近付こうとしても接触はできないよ。『ぶつかっちゃいけない』んだ」


分かるように話せっつーの。

やっぱりバクの言ってることはよくわからない。

触れられないんだったら触るまでだよ。


「なかなか夢から醒めないね。俺が介入したことで、夢が深くなってるのかもしれない」


「醒めてどうするの? 明日もまた同じ夢でバクと会うの?」


それじゃなんの解決にもならない。

なのに、バクは寂しそうな顔をしてふっと笑う。


「そうだね。殺さなくて済むのなら……」


「馬鹿」


あたしはバクにつかつかと歩み寄って、あたしよりも背の高い彼のことを睨んだ。


「前からずっと『貘』が次の『貘』を騙して……馬鹿みたい。どうせあたしがバクに殺される予定だったんなら、イレギュラーを起こしてやろうじゃない」


面喰らっているバクを無視して、あたしは……


バクの周りをひらひらと飛んでいた蝶を、乱暴に掴み取った。


その瞬間、全身がはじけ飛ぶような不思議な感覚に襲われる。



「馬鹿っ、どうして自分で壊し――っ!」


バクの叫び声が聞こえた気がしたけれど、あたしの意識はまた真っ白く染め上げられて――途絶えるのだった。