「ねぇ、あたしには『貘』の素質があるんでしょ?」


「そうだね」


あたしの質問に、バクは力なく笑って答えた。

試しに、右手を差し出してみた。


虹色の蝶が来てくれるんじゃないかって思って。


想いが通じたのか、蝶はすぐ近くまで降りてきてくれた。

だけども、あたしの手には一向にとまろうとしない。


「俺が介入したことで、この夢の構造が脆くなってる。たぶん、俺がここで君の心を食べなくても、もうこの夢は見なくて済むよ」


「ちょっと黙ってて」


「ただ、『貘』の素質のひとつに『同じ夢を見続ける』っていうのもあるから――」


「黙っててって言ってんじゃん!」


怒鳴ると、蝶がひらりと逃げてしまった。

そしてその軌道はくるくると回りながら、バクのもとへ。


「無駄だよ。素質はあってもまだ君は『貘』じゃない。何がしたいのか知らないけれど、この蝶に触れる事ができるのは俺だけだよ」