「おっすー」


「あれ? 今日先輩だけですか?」


「うん。ご不満? 俺以外の誰かがお目当て?」


にやりといたずらっぽく笑うジン先輩に、違いますと否定しながら向かいのソファに腰を下ろす。

そういえば副部長なんだっけ。

なら、菊池先輩にこだわらなくてもジン先輩でいいのかな?

そういうことなら、ジン先輩の言う『誰か』は先輩本人でも構わないわけだ。


「入部届、渡そうと思いまして」


そう答えるとジン先輩は少しだけ何も言わずにいたが、やがてばつが悪そうに呟いた。


「……それ、俺が受け取っとくよ」


なにかジン先輩の様子がおかしい。

今の意味深な間はなんなんだ。

ジン先輩の性格上ツッコミ待ちかなにかなのかと一瞬思ったが、そんな風にはとても見えない。


「たぶん、暫く来ないから」


主語の省かれた言葉が続けられる。

来ないのは……菊池先輩が、だろう。

事情は分からないが、菊池先輩が来ないというのなら、やはり顧問に直接渡すかジン先輩に渡すしかない。

こういう部活の顧問は、あまり部活を管理する気のない先生だろうし、どんな先生だか分からないし……

情けない話だが、正直言って、会うのが少し怖かった。

 
「俺に任せるのに抵抗があるんなら、顧問に顔合わせの意味も込めて、俺が出席簿出す時一緒に来て顧問に渡すんでもいいけど」


私の沈黙を少し誤解したらしい。

真剣な表情の先輩は私を真っ直ぐ見ていた。