「わっはー! きっちーが口説いてるーっ、口説いてるぞー」


ジン先輩はどうやら賑やかし属性が付いているらしい。

いちいち冷やかされると少しやりにくいのだが……

菊池先輩は顔はさほど向けずに、ぎろりと鋭い目線だけを突き刺す。

口元は笑っているが、目は全く笑っていない。


「……じゃあ連絡したいとき、既にアドレス交換してるジンが全部間に立ってきっちり連絡してね」


「どうぞ交換しておくんなまし」


すっと手を差し出しながら頭を下げるジン先輩。

やはり扱いには慣れているようだ。


わかればよろしい、と芝居がかった口調で言うと、菊池先輩はこっちに目配せしてきた。

私も携帯を取り出して、赤外線モードを起動する。

別に構わないのだが、こちらの意思はスルーするのはわざとなのか素なのか……


とにもかくにも、そうやって無事にアドレスは交換された……のだが。


「なんだかすごいアドレスですね……」


菊池先輩のアドレスはひどかった。

すごいというか、ひどかった。

数字しかない。

ドットがひとつ挟まれてはいるが、残りは全て数字だった。


「ああこれ? んー、俺の円周率」


私の知ってる円周率はこんなんじゃない。


「もし縁が切れるようなことになったら躊躇なく消してね。入部が決まるまでは、俺からはメールしないし。俺としては出来れば入ってほしいけどね。陣野さん面白いから」


私の事を面白いと思う要素がどこにあったか知りたい。