百万ボルトの微笑みを浮かべたと思ったらまたぱっと無表情に戻ると、ジン先輩のことをのっそりと指差した。
「それでそこにいるのがわたしのお兄ちゃんなんだけど……岡野 仁(おかの じん)。もう、話したのかな……?」
どうやら、この兄妹は二人で苗字が違うとかそういう事情はないようで、普通に岡野兄妹でいいらしかった。
どうしてジン先輩は苗字を呼ばれることを嫌がるんだろうか……?
妹である奈津さんとは特に軋轢は生じていないようだし、もっと別の所に理由があるのかもしれない。
しかしそれは本人に聞いていいことではない気がしたので、そのうち菊池先輩にでも聞いてみようかと思った。
「さて……そろそろけっこうな時間が経ってるわけだけど。陣野さん時間大丈夫?」
菊池先輩がちらりと時計を見上げながら尋ねてくる。
「今日はまだ大丈夫です。早く帰らなきゃいけない日もあるから、そのあたりの都合がつく部活に入りたかったんですよ」
「そっか。もう少しお喋りしていきたいところだけど……俺がそろそろ出なきゃなんだよね」
そう言いながら先輩はシンプルなデザインの携帯を取り出した。
こういうもののデザインの趣味って、やはり人柄が出るよなぁ……
「一応俺とも交換してよ。入部するって決まったら教えて欲しいし、本入部になったら部員みんなで顔合わせもしたいと思ってるし」
それからふっと穏やかな笑みを浮かべ、こう続ける。
「うちの部に入らないにしても、部活のことで困ったことがあったら相談に乗るから、さ」