『ちょっとでも寂しいなら、幸せって言えないだろ。』


暗闇に溶けていく小さな声は、なぜか私よりもずっと寂しそうに聞こえた。



「でも恋人同士で全然寂しくない人たちなんて居るのかな。」

『居るだろ、それは。少なくとも…』


そこまで言って、伊吹くんはピタリと言葉を止める。

しばらく待ってみたけれど、その先が続けられることはなかった。

沈黙と夜の静寂の中に車の音だけが響く。



『弘人先生と話したときさ、』


不意に伊吹くんが話し出し、その声をしっかり聞き逃さないように私もジュースを地面に置いた。



『応援しようって思った。2人のこと。』


視線は下に向けたままで、その声も自信なさげで。

それでも伊吹くんの想いだけはしっかりと伝わってくる。



『先生は本音で全部話してくれたし、そんな先生には敵わないなって思った。』


今、伊吹くんも本音で全部話してくれている。

ポツリポツリと、一言ずつ噛みしめるように。


その横顔から、目が離せなかった。