『弘人先生とうまくいってないの?』
もう飲み終えてしまったのか、伊吹くんはジュースの缶を地面に置く。
唐突なようでいて、ずっとタイミングをうかがっていたであろう一言に胸が痛む。
「うまくいってないわけじゃないよ。」
ずっと誰かに話したかった。
弘人さんとのことを、ずっと誰かに聞いてほしかった。
でも、伊吹くんはそれを1番話してはいけない人だと思っていた。
『じゃあなんで元気ないんだよ。』
「元気なくなんかないよ。」
『さっきすげぇ暗い顔して歩いてたけど?』
伊吹くんの一言がまっすぐに刺さる。
私はそんなに暗い顔で、弘人さんに会いに行こうとしていたのか。
『有佐が幸せで居てくんなきゃ俺が報われないだろ。』
あぁ伊吹くんだ、と思った。
まっすぐすぎるくらいまっすぐで、私にはもったいない程の綺麗な気持ち。
「私、すごく幸せだよ。でも…」
『でも?』
「ちょっと寂しいのかもしれない。」
弘人さんの中に前の彼女さんを感じてしまって、とまでは言えなかった。