遊具で遊んでいる子供に、母親らしき女性がもう帰るよと声をかけている。

親子が公園を出て行ってしまえば、私たちはそこに2人になった。



『はいこれ。』


伊吹くんは近くの自動販売機でジュースを2本買ってきてくれた。



『おごり。』


財布を出そうとした私にそう言って笑い、綺麗に茶色く塗装されたベンチに座る。

隣に座ると、一緒に並んでお弁当を食べていた日々が蘇ってくる。



『高校生にはこんなとこしか連れて来てやれないけど。』

「え?」


ジュースを一気に半分程飲んで、伊吹くんはなぜか少し恥ずかしそうに呟く。



『こういうのだって、良いもんだろ?』


自転車に2人乗りして、自販機で買ったジュースを飲んで。

ただ公園のベンチに並んで座っているだけの、とても満ち足りた時間。



「うん。」


ここに来るまで、私は誰の目も気にしていなかった。

そう思って、伊吹くんが弘人さんのことを意識して言ったのだと気付く。