いたずらっぽく笑う伊吹くんにつられて、私はそっと自転車にまたがった。

ちゃんと掴まっててよと言う伊吹くんの肩を遠慮がちに掴み、私は風を切り始めた自転車の揺れに身を任せる。



『気持ちいいな〜風が。』


伊吹くんが軽快にこぐ自転車は私が向かおうとしていた弘人さんのマンションとは逆方向へ進んで行く。

どこに行くのかは分からないけれど、行き先はどこでも良かった。


車通りの少ない道へ出ると伊吹くんはスピードを上げて、肩では頼りなくなって腰に手を回した。

暗くなり始めた道を灯り始めた街灯が照らす。

それがとても綺麗で、伊吹くんの背中にそっと頭を預けてただ見惚れていた。



『はい、着いたよ。』


伊吹くんが自転車を停めたのは、どこにでもあるような普通の公園だった。

少しの遊具とベンチ、あとは芝生がなだらかに広がっている。



「こんなとこあったんだ。」

『昔から何かあるとここにボール蹴りにきてたんだよな。』


自宅からそんなに距離は離れていないと思うけれど、初めて来る場所だった。