『それって、急ぎの用事?』

「え?」

『どうしても今じゃないとダメなとこ?』


声をかけてきたときの爽やかな笑顔ではない 、少し切迫感のある表情に心が揺れる。

急ぎの用事でも、どうしても今じゃないとダメなところでもない。

でも弘人さんにはもう行くとメールをしてしまった。



『もしそうじゃないんなら、今からちょっと出かけねぇ?』


様子をうかがうわけでもなく、気遣うわけでもない、伊吹くんには珍しい強引さを漂わせる目だった。



「うん。」


その目と目が合って、私は何かを考える前に頷いていた。

弘人さんに何から話そうか、それともやっぱり彼女さんのことは気にしないようにしようか、頭の中をぐるぐると回っていた思考の全てがどうでもいいように思えた。



『後ろ、乗る?』


そう聞く伊吹くんはもういつもの優しい伊吹くんだった。



「ううん、見つかったら良くないし。」

『ちょっとくらい大丈夫だよ。ほら。』


伊吹くんはあっという間に私のバッグを取って、自分のバッグだけでいっぱいになっているカゴに乗せる。