「おい、離せよ、手」
シートに座ったまま、樹がジロリと大淀を見あげる。
わたしもあわてて手を引っ込めようとしたけれど、ギュッとつながれた手を、大淀は離してはくれなかった。
「上野、この前はつないでも嫌がらなかったじゃん」
わたしに向けられた冷静な大淀の声。
「この前……?」
樹の顔が、一瞬マジになった。
「え、あ、ちがうよ……」
えっと、なんて言おう。
ホントはちがわない。
あの朝――大淀と手をつないで登校したとき、つながれた彼の手をわたしは振り払わなかったもん。
「泣いてたんだよ、上野は」
大淀が樹をジッと見おろした。