「え、お前の車じゃないんだろ?」
キョトンと訊く樹に、イラつく大淀。
「それはそうだけど…」
「高価な車借りて、息子の命まで預かるのに、あいさつもしないんじゃなぁ? 心配してるぜ、きっと」
「してないってば」
ムスッと答える大淀。
それでも理屈は納得したのか、自分の部屋に向かう階段を上がらずに、奥の部屋へと続く廊下をひとりで歩いて行った。
チッと舌打ちをしながら。
「まぁ! うちの慶がいつもお世話になってます~」
奥から飛び出てきた大淀のお母さんは、若くてかわいらしい雰囲気の人だった。
そして、よくしゃべる。
「今日は海へ行くんですって? 素敵ねぇ。
慶ってば、お兄ちゃん達とちがって、無愛想だし、お友だちも少なくって本気で心配してたのよ~」
なんて言う。