それから樹は、横でムスッと突っ立っている大淀に気づき、「お」って顔をした。
「お前が大淀?」
いきなりの「お前」呼ばわりに、強気の大淀がカチンときたのが即わかる。
「相原樹だ。よろしく」
「ああ」
黒目がちの大淀の瞳が、容赦なく樹をにらみつけた。うわ…。
それに気づいているのか、いないのか、樹は大淀の肩をポンポンッて叩いた。
「お手柔らかに」
玄関を上がって大淀の部屋に戻る前に、樹が大淀に訊いた。
「家の人はもう寝ちゃってる? 車借りるし、あいさつしときたいんだけど」
「ああ、そーゆーのいらねーから。母親には出てくんなって言ってあるし」
大淀はつっけんどんに答えた。