莉奈は私と伊織の結婚について知らないようすだった。
つまりはまだ教えない方がよいのだろうか?
どうこたえようか考えていると先を歩いていた伊織が振り返った。


「莉奈。この人はお兄ちゃんの知り合いなんだ。理由があって一緒に生活するんだよ。よろしくな」


伊織が玄関の扉を開けながら莉奈をチラッと見てそう言った。


“知り合い”?


「へぇ~。ねぇ、なら莉奈と遊んでくれる?」
「えっ!?あ、うん。いいよ」


そう答えると、やったー、と莉奈は嬉しそうに靴を脱ぎ捨てて廊下を走り去って行った。

ちゃんとした紹介はないが、やはりあの子は伊織の妹のようだ。
結構、歳離れているんだな。

私は目の前の伊織の背中を見つめた。

まぁ、確かにまだ“知り合い”だよね。
あんな幼い子に突然、お兄ちゃんのお嫁さんですなんて言っても理解出来ないだろう。
いずれ、紹介が知り合いから嫁に変わることはあるのだろうか。

そう思いながら玄関で靴を脱いでいると、廊下の先からひとりの男性が走ってきた。


「真琴様。お早いお着きで!」


そう言って出迎えたのはスーツ姿の若い男性。
髪も撫で付け、ノンフレームの眼鏡をかけている。