「あっ……」


伊織は無表情のまま私の前まで来る。彼に会うのはこれが二度目だった。
そう。あの顔合わせ以来。声なんて聞くのは初めてだ。
結構、甘めのいい声をしていると思う。

それに改めて見ると意外と背が高かったんだ。
この前は座っていたからわからなかった。
イケメンで背が高くて声も良くて御曹司で。
神は彼にどれだけの物を与えれば気がすむのかね。
なんだか感心に近い気持ちでマジマジとその姿を見つめてしまう。


「お客さまじゃないの?」


女の子は不思議そうに伊織と私を交互に見ている。
その仕草はなんとも愛らしい。


「あぁ。莉奈、このお姉さんは今日からここに住むんだよ」
「一緒に!?」


莉奈と呼ばれた女の子は興味津々に覗き込んでくる。

えっと、どうしよう。

なんだか反応に困る。


「入ったら?」


ひとり戸惑っていると、伊織はそう呟いて屋敷の門を開けた。