華月からみた雪夢の印象は、ごく普通の少女、という一言につきる。

病人ということで儚げには見えるけど、本当に、普通にごく最近まで高校生をしていたような、笑顔の可愛らしい少女。病気なんてどこにも患ってなくて、ちょっとした肺炎とかで一時的に入院しているのかというような、健康的な少女。

だからこそ、冬威は雪夢が記憶障害を抱えているだなんて、思えなくて、現実をうけいれられないから、苦しいのだ。あの、感情の起伏がないかのようなポーカーフェイス青年がこんなふうに涙を流すなんて、華月は考えたことなんてなかった。

「っうぐっ……」

「あぁ、喉つめちゃった?」

華月は冬威がすでにコップの中の水分を飲み干してしまっているのを知っているを知っているので、自分の三ぶんの二ほど入った汗をかいたグラスを渡す。冬威は喉を押さえながらそれを、思った以上に強い力で、華月の手ごと引っ張る。自然と華月は席をたってしまう。

触れている手背が、熱くなっていく。

彼は、こんなにも華月の心を揺さぶる。

「あ、ありがと」

「…どういたしまして」

オレンジジュースを飲み干した冬威の顔は、なにかを決意したように、もう涙は流していなかった。

いつのまにかすべての料理を平らげていた冬威が、

「いくぞ」

「へ?」

華月の手をそのまま握りしめ、立ち上がってレジへ向かっていく。

華月は顔をしかめながらついていくしかなかった。