薫の体は小さな骨壷に収められ

無言の帰宅をした


まだ真琴は夢と現実との間を

彷徨っているようだった


一瞬で記憶があの時に戻り

悲しみに襲われる


あの時の喪失感が真琴を支配する


優しく励ましてくれる拓がいる

友達がいる


現実を見なければならないのに…


囚われた心は前に進めない


薫への気持ちが愛から友情へと変わり

拓と付き合っていく事に

決めたはずなのに…


その自分勝手な考え方が薫を苦しめ

彼の死期を早めたのではないか?


あの笑顔は私を許してくれたのではなく

薫の“諦め”の表情だったのか…


薫への気持ちが変わったのは私だけで

薫は意思表示が出来なかったのだから


もし拓の事を報告した時

薫が言葉を発せられる状態なら

何と言っただろうか?


薫が私と別れるのは嫌だと言ったら


私はどうしていただろうか……?