そんな薫が私に向かって

手を振っている


しかし口は開かない

薫の言葉は聞こえない…


でも確かに薫は微笑んでいる

優しい表情だった



「薫~!早くこっちに来てよ!

私を抱きしめてよ!


やっと逢えたっていうのに

何で黙ったままなん?


勝手に退院して何してんよ!」


薫は黙ったままこっちを見ている


私は薫に近づこうとするが

思うように足が動かない…


焦る私を遠くから見つめるだけだった


そのまま薫は手を振って

後ろを向いて歩きだした


「薫~待ってよ!何で私を置いて行くん」


薫の姿が薄れて行く


(何でなん…?やっと逢えたのに…)


叫んでも叫んでも私の声が

薫に届く事はなかった…