「あぁっ!!起きた!起きた!」
ぬぬっ?
「彪(あや)っ!うっせえぞ。コイツまだ困惑してんだよ。静かにしておけ。」
彪?
誰?
「そっかぁ。ごめんね。じゃぁ、今のうちに・・・。俺は稲垣彪(いながき あや)。よろしくね。君は?」
・・・かわいい。
女の私でも負けた気がする。
極上のスマイル。
「私は・・・姫野結愛。」
「結愛ちゃん!!!かわいいね。よろしく。あっ、ついでにコイツが結愛ちゃんを助けた、南城瑠維(なんじょう るい)。ちなみに、龍輝の総長。んで、幹部の峯川叶(みながわ かなう)に日向明人(ひゅうが あきと)、それから有安風磨(ありやす ふうま)、小早川曜介(こばやかわ ようすけ)。俺ら結愛ちゃんを守るから。」
ちょっと待って!
一気に名前言われても・・・。
しかも「守る」って・・・!?
どうすればいいのぉ~~~~~!?
龍輝・・・。
それは日本一の族。
そんな人たちに捕まった・・・・。
あぁ、私の人生・・・。
なんて短く切ないものだったのだろうか・・・。
もっと楽しめば良かった。
もっと笑えば良かった。
姫野結愛・・・。
12歳で人生終わった。
なんて考えてると龍輝の方が話しかけてることに気付かなかった。
「おいっ!お前、聞いてんの?」
「・・・っえ?あ、うん。なに?」
「あのさぁそれって聞いてるって言わないんだけどぉ。アハハハハッ!!結愛ちゃんっておもしろいね!」
彪は完全に楽しんでて瑠維はキレ気味。
曜介は彪と一緒に笑ってて風磨は背伸びをしてる。
叶は下っ端になんか言ってて、一番年下の明人は眠そう。
なんか楽しそうだと思った。
するとその様子にしびれを切らした瑠維が、
「だからぁ、お前は俺らの族に入れって言ってんのっ!」
と一言。
ん?ちょっと待てよ?
んんんんん?
ふぇ~~~~~~~~~~!!
「それってマジで言ってんの!?」
しまった・・・。
驚きすぎて思いっきりタメで言っちゃった。
でもみんな気にしてなさそうで
「うん。俺らはこう見えても嘘はつかないからね。」
「ぜひ結愛ちゃんに俺らの族に入ってほしい。」
「喧嘩なら教えてやる・・・。」
ヤバい・・・。
憧れの龍輝が自分の手に届く。
次の日。
私はちゃっかり龍輝のメンバーになってた。
もちろんタメ口&呼び捨てで呼ぶような仲にもなってた。
新しい居場所・・・。
見つけた・・・。
てゆーかそんなこと考えてる場合じゃなかった。
今は龍神咲の寿木レオとの勝負だった。
「タイマン・・・。受けてやってもいいぜ?」
コイツ、まんまと罠にかかった。
そもそも私がタイマンを張ろうって言ったのには理由があった。
わざと手加減してレオに負ける。
そして私は龍神咲に入る。
もちろん、龍輝のメンバーには秘密で。
それから龍神咲を強くする。
他の族が怯えるくらい。
もしそうなったら・・・。
龍輝と龍神咲の全面戦争だ。
その時は龍輝につく。
そして龍神咲をボコボコにして龍輝がTOPってことを全国のヤツらに見せびらかすんだ。
それが・・・
瑠維の夢だった。
「俺はせこい手使ってでも全国の族共に龍輝がTOPって見せつけたい。」
って何度も何度も言ってた。
「じゃぁ、今日の4時に春日之前公園だ。」
「わかった。」
こうしてレオとのタイマンが決まった。
4時・・・。
春日之前公園にはレオが待ち構えていた。
私はゆっくり駆け寄り
「待たせたな。」
と言った。
「さっそくいくぜ?」
「望むところだ。」
「オリャーッ!」
あれっ?
コイツ本気か?
ヤバい!
弱すぎる。
負けれねぇじゃん!?
緊急事態発生だよ!
にしてもなんでこんなに弱いんだ?
何食ってんだよ。
野菜だけか?
もう無理・・・。
この作戦は止めよう。
もう蹴りつけるぜ?
「どりゃぁぁぁぁーーーー!!!!」
バコーンッ!
私の回し蹴りはレオに見事命中。
レオは倒れこんだ。
そして、
「なんでそんなに強いんだよ・・・。」
と言った。
なんでこんなに弱いかが分かった。
私が強くなったんだ。
いつか瑠維の練習相手になれるようにって・・・・。
瑠維が帰ってくるまでに強くなるって決めたんだ。
瑠維・・・。
もういいでしょ?
帰ってきてよ。
待ってるから。
私が龍輝に入って4ヶ月が経とうとしていた。
季節は冬。
街はクリスマスムード一色。
正直、クリスマスはあんまり好きじゃなかった。
寒いとか、その程度の理由じゃなかった。
両親が亡くなった日だったから。
もちろん龍輝のヤツらには言ってない。
言うと厄介な事になる。
しかも、交通事故とかで亡くなった訳じゃない。
父は初代龍輝の総長。
母は龍輝のレディースの美虎(びとら)の初代総長。
二人は引退した後も確実に狙われていた。
私にクリスマスプレゼントを買いに行くときもほとんどの族がクリスマス暴走真最中。
だから注意はしていたらしい。
なのに…
なのに…
プルルルル~♪
プルルルル~♪
プルルルル~♪
急に慌ただしく鳴る電話。
なんだろう。
「もしもし、姫野です。」
『結愛ちゃんですか?わたしは喜多宮病院の三吉と申します。』
嫌な予感しかしない・・・
「…はい。」
声が弱々しくなる。
『いいですか?落ちついて聞いてください。』
覚悟はできていた。
狙われてるのはわかってた。
だけどゴクリと息を呑んだ。
『…。お母さんとお父さんが・・・さっき病院に運ばれてきたの。』
「はい…。」
『それでね…、まだ生きてたの。けれど…けれど…』
私が幼いから可哀想だと思ったのか…
最善を尽くしたけどだめだった悔しさなのか…
看護師さんは、切ない声で泣きながら言った。
『…14時56分。お亡くなりに…ヒック…グスン…なられました…。お二人とも…ヒック…同じ時間に…仲が良かったのでしょうね…。結愛ちゃんへの…クリスマスプレゼントを預かってます…。』
放心状態で動けなかった。
死亡理由は…
銃撃
だった・・・・・
ずっと対立してたチームにやられたらしい。
そして、クリスマスプレゼントは
大きな大きな、熊のぬいぐるみだった。
一緒に入っていたメッセージには
『結愛、クリスマス&誕生日おめでとう!!クリスマスに生まれる子なんて滅多にいないわよ。お母さんに感謝してね。笑
それに今までごめんね。お母さんとお父さんがこんなのだから結愛が不良になっちゃった。塾に行ってないのも知ってる。だけどね…不良って優しいのよ?知らないでしょ?だから、どうせ不良になるなら優しい人に出会ってね。言葉で言えないからメッセージにしたんだ。
ごめんね…ダサい母親と父親で…。 12歳の誕生日、本当におめでとう。』
涙はでなかった。
力強い父と母の気持ちが伝わったから。
そんな事があったからクリスマスは好きじゃない。
けれど・・・
こいつ等は
「やったぁぁぁぁぁぁ!!クリスマス~~~~!暴走!暴走!」
彼女とかいねぇのかよ。
寂しい男たちだなぁと思ったのが伝わったのか、彪が
「結愛ちゃん。こいつ等、彼女いないから、もしよかったらクリスマスに走るんだけど一緒に走らない?」
「・・・走る?」
走るの意味がわからなかった私は首を傾け、彪の綺麗な瞳を見つめながら言った。
少し笑った彪はとびきりのスマイルで
「暴走のことだよ。夜とかバイクが走ってる音とか聴こえない?」
あ、なるほど。
「聴こえる。」
「そうそう。あれあれ。実はあれって暴走族がバイクや車で走ってるんだ。」
そうなんだ。
いくら両親が暴走族って言っても私が生まれる前の話だ。
わからない。
「そうなんだ!じゃあ、龍輝もするのぉ?」
「うん。」
なぜか嬉しかった。
でも龍輝は全国TOPの族。
何人くらいなんだろう?
「それって何人くらいが参加するの?」
「う~ん。同盟組んでるチーム全部入れると2000人くらいかなぁ?」
2000人!?
そんなにいるのかよ!!
またもや気持ちが通じたのか
「多いでしょ。でも本当はもっといるよ。多すぎて参加できないだけ。まあ、龍輝だけでも800人いるからね。あとは、レディースの美虎とか一番仲がいい龍星(りゅうせい)とか晴輝(はるき)とか美堂(びどう)とか、まだまだあるよ。」
なんか人の多さに聞いただけでもクラクラする。
だけど
「絶対参加する!」
そう言ってた。