急に不安になる。


「……弓美? どしたの?」


弓美の腕の中で体をよじるって向き直ると、やっぱり弓美は泣いていた。


弓美、なんで泣いてるの?

わたし、何かした?


黙ってるとわからないよ?


問い詰めたいけど、ここは我慢。


ツヤツヤふわふわした茶色の髪をなでると、弓美は、ようやく口を開いた。


「垂れ幕のこと、なんで黙ってたの」


垂れ幕……?


弓美の彼氏さんと神林くんは、どうしたらいいかわからなくて固まってる。


「垂れ幕って? なんのこと?」

「ペンキ! つけられたんでしょう!? F組のやつら、にっ……!」


弓美の色素の薄い目から、また涙がこぼれて、キラキラしてる。


「どうしてそれを……」


こうなるだろうから、言わなかったのに?


弓美がそれ以上話さず締め付けてくるばかりなので、彼氏さんのほうをチラッと見てみる。

案の定、事情を説明してくれた。


「初めまして……聞いてると思うけど、弓美の彼氏の清水直昭です。弥白ちゃん、だよね? 弓美から話だけはたくさん聞いてるんだ」

わたしはコクンとうなずく。

早く事情が知りたい。


「さっきまで2人で色々まわってたんだけど、実は、ちょっと嫌な話を聞いちゃってね。……整理すると、弥白ちゃんの描いてた垂れ幕にF組? の人たちが黒いペンキをつけちゃって、しかもそれを謝らず、噂にならなかったことを喜んでるような」

「あいつら弥白をバカにした! 弥白が何も言わなかったのを、弥白が大人しいからだって、何も言えないからって……!」


ああ、ごめん、弓美。

わたしのことで、泣いてくれてる?


ううん、違う。

わたしが弓美に話さなかったから、怒ってるの?